いつもと変わらない会社の風景。とつぜん、あなたの会社の重要人物が「会社を辞めます」と言ってきたら、あなたはどうしますか?
会社のキーパーソンが去ってしまう事態は、どのような会社にも起こり得るものです。これを不測の事態とせず、あらかじめ心の準備しておき、対策を練っておく必要があります。
今回は、会社の重要人物が辞めるときの正しい対処法について考えてみたいと思います。
目次
まずは引き止められるかどうか検討する
「会社を辞めます」と言ってきた社員がもしあなたにとって会社の重要人物なら、その人物が会社を去ることは会社の経営危機につながります。ここでどういう対処をしていくかは、大きな経営判断のひとつです。
できるだけ引き止めるか、辞めるにしても少しタイミングを遅らせてもらい、今後の経営に支障がでないようにしなければなりません。必要な引継ぎなどをしてもらい、残った社員がその穴埋めをできる体制づくりをすることも肝心です。
幹部や役員など、会社にとって重要な人物が辞めるというケースは、入社して間もない新入社員が辞めるのとはわけが違います。重要な職務を行ってきた社員ですから、本人としても、もうすでに腹が決まっているということが多いでしょう。
ですので、相手の意志を尊重しつつ、「なにか誤解はないか」、「会社として改善できることはないか」ということを話し合いのうえで模索していくことが大切です。
これだけはやってはいけない間違い
ここでやってはいけないことは、引き止めようとするあまり、「いま辞めるのは君にとってよくない」というふうに頭ごなしに否定してしまうことです。もし会社に対して不満や誤解がある場合、「やっぱり社長は自分のことを理解しようとしないんだな」と、不満感を増大させてしまうかもしれません。
何らかの誤解で辞めようとしていることもありますので、相互理解を図ったうえで説得していくことが大切になります。
なぜ辞めたいのか、その理由を理解する
大切なことは、なぜ辞めようと考えるようになったのか、その理由を聞くことです。何かきっかけがあるのか、ずっと前からそう考えていたのか、本人が抱える境遇を理解するように努めましょう。
重要な職務を行っている人材が会社を辞めたいと思ってしまう理由は、大きく2つに分けられます。
1.会社に対して不満がある
2.新しいことにチャレンジしたくなった
これらについて、細かく検討してみましょう。
会社への不満はさまざま
まず、会社の現状に対する不満について、どのようなことが考えられるでしょうか。
会社に対する不満にも、さまざまな事柄が考えられます。報酬面、労働時間などのライフワークバランス、会社での地位、そして人間関係です。
◎会社への不満:労働環境
もしかしたら、働きに対する報酬が十分ではないと考えているかもしれませんし、遅くまで残業が続いているのかもしれません。
もし話し合いの結果、本人がこうした不満を抱えていると分かったときには、改善できるところは改善していく必要があります。
ただしここで注意点があります。こうした労働条件に対する要望をすべてのむことは必ずしも得策ではありません。「今よりも好条件の会社を見つけた」、「好条件での引き抜きがあった」というケースもありますので、あくまでも、合理性があるものに対して、要望を受け入れるようにする必要があります。
でないと、「『辞める』というカードを出せば、会社に要求を出せる」と、その社員も他の社員も思ってしまう恐れがあります。
◎会社への不満:キャリア
こちらとしては社員に対して十分な評価を与えていると考えていても、本人はそう感じていないのかもしれません。
働きに応じた役職を与えられていないと考えている可能性もありますし、「このまま会社に残っていても、昇進ができそうにない」と考えてしまっていることもあります。
そのような場合には、会社の将来を話し合ったうえで、会社のなかでどういうキャリアパスが考えられるのかを伝え、必要に応じて待遇を考え直すことも重要になります。
◎会社への不満:人間関係
ほかにも、人間関係のトラブルがあるかもしれません。これはなにも、パワハラのような問題だけを指すのではありません。
同僚や上司、経営陣の仕事に対する考え方が自分の考えとは食い違っていると感じているのかもしれません。こうした不満は、本人の口からは言い出しづらいことですので、見過ごされがちです。
しっかりと話し合って、改善できるところがないか考える必要があります。
◎社員が新しいことにチャレンジしたい場合
能力の高い社員の場合、「とくに会社に不満はないが、新しいことにチャレンジしたくなった」という理由で会社を辞めたいと考えることも多くなります。
どこか別の会社から引き抜きがあったのかもしれませんし、独立したいと考えているのかもしれません。
その場合、会社ができる対処としては、新しいプロジェクトに参加してもらうなど、本人の能力を発揮する場を提供していくことになります。もちろんこうした対処には、できる場合とできない場合がありますが、なるべく本人の状況を聞いておくことも重要です。
というのも、近い将来、また別の社員がこうした形で会社を去ろうとする可能性もあるからです。最近ではますます労働市場の流動化が進み、フリーランスなどの自由な働き方をするひとも増えています。
社員の働き方についての考え方の変化に対して、常にアンテナをはっておく必要があります。
重要人物が会社を去ったあとも卑下しない
あなたの会社の重要人物が結果的に去ってしまった場合、そのあとどう対応するかも非常に重要です。
「あの人材は、会社を見捨ててしまった」
などと、ネガティブに考えないようにすることが大切です。
そのようにネガティブにとらえると、会社での懇親会や飲み会などレクリエーションの場面で、ついうっかりその人材の悪口を言ってしまうかもしれません。
もう去った社員だし、本人が聞いていないから大丈夫、と油断してはいけません。残された従業員は、「社長は、いつか自分が辞めた時もこうやって言うんだろうなあ」と不安になり、会社に対する忠誠心や信頼も大きく損なわれてしまいます。
残された社員は、「あの上司なしでこれからどうやって仕事を進めればいいんだろう」というように、大きな不安を抱えている場合があります。また、「なぜあの幹部はこの会社を去ったんだろう、よほど不満があったんだろうか」と、会社に不信感を持っているかもしれません。
残された社員が、「この会社は社員の意志を尊重してくれる会社だ」と安心できるよう、経営者としての度量を示すことが大切です。
ピンチをチャンスに変える
重要な社員が辞めてしまったときは確かに会社のピンチではありますが、正しく対処することで、チャンスに変えていくこともできます。
これを機に、幹部が急に辞めても経営に支障がでないような仕組みづくりや、人材育成の見直しをするということも大切です。
そして残された社員に対して、「会社は社員のことを最優先にしてくれている」という安心感を与え、会社と社員との間の信頼感を強めていくことも、その後の経営にとって重要なファクターになります。