春の訪れとともに、いかなご漁が解禁されました。
いかなごの釘煮が好きな方も多いのではないでしょうか。
2017年は、不漁だそうで、水揚げ量がかなり例年よりも少ないようです。
そうなると、もちろん高値がつきます。
兵庫県では、例年の2倍の高値がついたそうです。
でも、高くても食べたい!という方は多いことでしょう。
今回は、そんないかなごについてご紹介したいと思います。
いかなごにまつわる言葉について、ちょっと考えてみましょう。
いかなごの正体
いかなごは、瀬戸内海の「春告魚」とも呼ばれています。
ほかにも漢字で「玉筋魚」や「鮊子」とも書きます。
今年は水温が高いことが原因で不漁が続いていますが、春にはこのいかなごの稚魚の漁が解禁されるのです。
4、5センチくらいのかわいい稚魚が水揚げされます。
逆に、いかなごを捕食する大型の魚(スズキやハモなど)は増えるともいわれていますので、いかなごを食べ損ねた方は、そちらを楽しみにしましょう。
分類は?
いかなごは、スズキ目ワニギス亜目イカナゴ科イカナゴ属に分類される、硬骨魚です。
関西だけでなく、北海道から九州に棲息しています。
生態は?
きれいな海に住んでいて、浅海や内湾など、砂のある海を好むようです。
いかなごは、夏になり水温が19度ほどになると、砂のなかで「夏眠」します。
冷水を好む魚ですので、水温が高い年は、不漁になるようです。
見た目は?
細長くて、腹ビレのない魚です。
銀白色の、美しい魚体をしており、25センチほどにまで成長するそうです。
イカナゴ、コウナゴ、キビナゴ??
おなじ「なご」つながりで、「いかなご」、「こうなご」、「きびなご」が存在します。
「こうなご」は、「いかなご」の東日本での別名です。
つまり同じ魚を指しています。
きびなごは、ニシン目ニシン科のまったく別のお魚です。
ややこしいですが、間違えないようにしてくださいね。
ご飯のお供に。いかなごの佃煮「釘煮」
いかなごの稚魚は、シンコと呼ばれています。
このシンコの佃煮は「釘煮」と呼ばれていて、伝統的な料理です。
釘煮のレシピはとてもシンプル。
釘煮は砂糖、みりん、醤油、生姜などを使って、甘辛に煮詰めた伝統的な料理です。
釘煮の発祥地は垂水
釘煮は、神戸市垂水区が発祥の料理といわれています。
ですので、春になると神戸・垂水いかなご祭が開催されています。
神戸市漁港組合などの団体が共催しているこのイベント。
もちろん、神戸の垂水漁港で水揚げされたいかなごの釘煮を調理してくれるそう。
とれたてを釘煮にすれば、さぞ美味しいでしょうね。
神戸に近い大阪でも、いかなごの解禁の便りを耳にすることができます。
関西の風物詩ですよね。
不漁の原因といかなご祭りの中止
2017年の第18回神戸・垂水いかなご祭は3月11日に無事行われました。
しかし、姫路市本町の大手前公園にて3月18日に開催予定だった「いかなご祭」(坊勢漁業協同組合が主催)は不漁のため中止になってしまいました。
今年は不漁のため1キロあたり3千円、4千円という高値になり、祭りに使える量を確保できなくなってしまったからです。
不漁の原因はまだ明らかになっていません。
考えられている原因は、いくつかあります。
兵庫庫県立農林水産技術総合センター水産技術センターは、主な原因として
1.いかなごを捕食するサワラなどの魚が増えたこと、
2.播磨灘の水温が上昇してしまったこと
を挙げています。
というのも、いかなご冷水を好む魚ですので、水温が高いと産卵がスムーズに行われないからです。
またほかにも、いかなごの親魚の餌であるプランクトンが減少してしまったこと、親魚を漁獲し過ぎたことも原因として考えられると述べています。
釘煮の名前の由来
釘煮って、なんだか面白い名前ですが、この名前には由来があります。
煮詰めたシンコが、錆びて折れ曲がった釘のように見えることが由来という説があります。
もうひとつの説は、釘煮を作る様子が釘を煎っているようにみえ、釘煎りが転じて釘煮となったという説があります。
「いかなご」という妙な名前の由来
なぜこの魚は、「いかなご」なんてヘンチクリンな名前なのでしょう。
一説には、「如何なる魚の子」、という言葉が由来といわれています。
なんの魚の子どもだろうか、という意味合いです。
黄昏(たそがれ)の語源ともちょっと似ていますよね。
「誰そ彼(たそかれ)」つまり、夕方の薄暗いときに人の顔がよく見分けられないので「誰だあのひとは?」と言ったことが由来といわれています。
こういうセリフを名前にしてしまうのって、なんだか風情がありますよね。
「玉筋魚」という当て字も、玉のように群れをなす様子、筋のような細長い魚体を表現しているそう。
漢字の当て方も、奥が深いですね。
いかなごは出世魚
いかなごの稚魚は、西日本では新子(シンコ)と呼ばれ、東日本では小女子(コウナゴ)という別名があります。
成長したいかなごにも、様々な呼び方があります。
西日本では金釘(カナギ)、古背(フルセ)、加末須古(カマスゴ)などの呼び方があります。
東北では女郎人(メロウド)、北海道では大女子(オオナゴ)だそうです。
稚魚は小女子、成魚は大女子というのもちょっと面白いですね。
いかなごの俳句
じつはこのいかなご、季語にもなっています。
晩春の季語として、しっかりと歳時記に登場するのですね。
こんな俳句があります。
飛び跳ねるまま小女子を釘煮かな 長谷川櫂
活きのいいとれたての小女子(コウナゴ)が目に浮かびますね。
そんな釘煮はさぞ美味しいことでしょう。
もう一句。
いかなごにまづ箸おろし母恋し 高浜虚子
母を想う気持ちと、いかなごを食べる風景を重ねている一句。
作者の母はきっと、釘煮をよく作ってくれていたのでしょう。
どちらの句も、なんだかほっこりしてしまう句ですね。
俳人たちの、いかなごに込めたいろいろな想いを感じてみてください。
春になって海へ出かける漁師さんの姿。
今年は大漁だねと声をかける卸のひとびと。
自宅で伝統の味付けで釘煮をこしらえるお母さんたち。
そんな、毎年の春の風景が思い浮かんできます。
まとめ
春を告げる魚と呼ばれるいかなご。
美味しく食べるだけでなく、いかなごがどんな文化を作ってきたのかを考えてみると、新たな発見があります。
先祖代々、いかなごがどんな風に生活になじんできたか思いを馳せてみると、ただのお魚では片付けられない味わいがあります。
いかなごにまつわる言葉を探ってみると、そんなむかしの暮らしぶりが見えてきます。
季語にまでなっているいかなごは、春を告げる風物詩になっているのです。
釘煮を召し上がるときには、そんな歴史に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。